インタビュー記事公開 キャリアプラン最前線 ~女性のキャリア志向が高まっているそのワケとは~

インタビュー記事公開 キャリアプラン最前線 ~女性のキャリア志向が高まっているそのワケとは~2019年11月21日

1回目:「MBAの基本」

インタビュー&カメラ:方喰正彰

 

2019年、消費税増税とともに話題になったこととして「老後2000万円問題」がありますが、働き方改革や副業の解禁など、これからのキャリアプランは今までになかったような大変革を遂げようとしていると思われます。

このような社会変化の中で、業界を問わず女性のキャリア志向が高まっているというお話を、MBAとキャリアという観点でお聞きしてみたいと思います。お話をお伺いするのは、MBAに関する事業をしている専門家、株式会社エグゼクティブ・ジャパンの喜多元宏氏です。最近のMBA事情を詳しくうかがってみました。

 

本企画は3部構成となっています。1回目は「MBAの基本」、2回目は「日本と世界のMBA」、3回目は「MBAの次のステップ」をテーマに取り上げます。また、毎回、MBA取得を目指し学習中の方や取MBAを得された女性のインタビューもあわせてお届けします。

 

 

 

増える女性の研究者

実際に、文部科学省 科学技術・学術政策研究所がまとめた『科学技術指標2018』によると、日本の女性研究者の数は2017年時点では144,126人であり、ほぼ一貫して増加傾向であることが指摘されています。また、世界規模でみた場合にも、各国とも女性研究者の割合が小さいのは企業であり、大学での割合はどの国においても大きい傾向があると指摘されています。

(出所:文部科学省 科学技術・学術政策研究所 『科学技術指標2018』)

 

 

また、日本の新規採用研究者に占める女性の割合は、研究者全体に占める女性の割合よりも大きいという指摘がされています。

 

(出所:文部科学省 科学技術・学術政策研究所 『科学技術指標2018』)

 

 

そのほか、日本の大学等における任期有り研究者の割合についても、男性より女性の方が高い傾向にあり、男性・女性研究者ともに、国立大学の保健分野において、任期有り研究者の割合が最も高いという指摘がされており、研究・学術分野において女性の活躍が目立っていることが確認できます。

 

(出所:文部科学省 科学技術・学術政策研究所 『科学技術指標2018』)

 

同じく、同研究所による研究開発を行っている資本金1億円以上の企業を対象にした調査、『民間企業の研究活動に関する調査報告2018』においては

研究開発者を採用した企業の割合は2017年度において58.8%の企業が研究開発者を採用し、女性研究開発者を採用した企業は3割弱で、1人以上研究開発者を採用した企業に限定すると、そのうち22.1%の企業が博士課程修了者を採用し、50.3%の企業が女性研究者を採用したということが報告されています。また、採用された研究開発者数の学歴・属性別割合の推移においては、女性研究開発者(新卒)の割合が3年連続で増加し、2011年度以降、最大の割合になったということが報告されています。

(出所:文部科学省 科学技術・学術政策研究所 『民間企業の研究活動に関する調査報告2018』)

 

学術分野において女性の活躍が広がってきていることを把握できたところで、ここからは、ビジネス分野における女性の活躍についてMBA産業を通じて調べていきたいと思います。

 

 

MBAは資格ではなくて○○だった?

まず、MBAとはどのようなものであるのかについて、再確認をしておきたいと思います。

「MBA」とは、「Master of Business Administration」の略で、一般に「ビジネススクール」と呼ばれる経営学の大学院(修士課程master course)の経営管理者コース修了者に与えられる学位のことです。ビジネススクールで提供されるMBA プログラムの最大のポイントは、研究者の育成ではなく、現役ビジネスパーソンの実践的なスキル向上を目的としています。イギリスQAA(高等教育品質保証機構)によれば、MBA はキャリア・ディベロップメント・ジェネラリスト・プログラム(career development generalist programme)と定義されています。

 

 

世界と日本のMBA

日本でもある程度、認知されてきたMBAですが、喜多氏いわく、世界に目を向けますと、MBAのスタイルは学校によって異なっているそうです。

喜多:フランスの国家エリート養成学校群であるグランゼコール(Grandes Écoles)はスタートして約270 年、ハーバード大学ハーバード・ビジネススクール(Harvard Business School, Harvard University) などの米国の一流経営大学院がスタートして約100年の歴史があります。一方、日本のMBA は、1978 年に慶應ビジネススクール(慶應義塾大学大学院経営管理研究科)が2 年制のMBA コースをスタートさせたものが最初のMBAです。

その後、各大学に経営大学院のようなものが徐々に創設されてきたが、教授陣やカリキュラム、輩出する人材などにバラツキがありすぎて、その評価は定まりませんでした。

そして、この評価が定まらないうちに、少子化による大学生数の減少が起こったり、急速なグローバル化によるアメリカ型経営が日本に浸透したこともあり、日本におけるMBA 乱発現象が起こりました。さらに、2003 年に文部科学省が従来の大学院研究科課程とは別に、企業経営や会計、法務などの実務家を養成する「専門職大学院」の制度を設けたことで間違いだらけのMBA 乱発現象をさらに加速させました。

 

 

日本で取得できるMBAとは?

日本国内でMBA と称する教育プログラムを実施している大学院には、次の4つのタイプがあります。

(1)AACSB※ のような国際認証機関(第三者品質評価機関)に認可されたビジネススクール

(2)第三者評価機関から正式にMBA と認可されていないが、欧米のMBA スクールに近い授業を行っている大学院

(3)カリキュラムやスクールのパンフレットではMBA の学位とあるが、実態はアカデミック・スクールに近い大学院。

(4)日本に進出した欧米のビジネススクール及び輸入MBAプログラム

 

喜多氏によると「(2)・(3)のタイプの各校が自校内でしか通用しないMBAという表記を使用するのは、募集の為である。この点が応募者に混乱と入学者に問題を起こしている。MBAに対する教育的インフォームドコンセントがなされていないことが原因であるが、殆どの応募者はこの点について知らない人が多い。」ということです。この辺りに「誤解されたMBA」の問題が潜んでいそうです。

 

※AACSB(The Association to Advance Collegiate Schools of Business)…

ハーバード大学、スタンフォード大学などの米国一流大学を中心に世界100カ国以上、1600以上の教育機関をメンバーとし、国際的にもっとも権威のある経営管理学教育の評価・認定機関。AACSBの認証は5年ないし10年ごとに継続審査を受け、合格しないと認証が取り消しとなる。

 

 

MBAを管轄している省庁はどこか?

喜多:大学院に準ずる機関なのだから文部科学省が管轄していると思われがちですが、文部科学省はMBA というものに対する概念を確立していませんし、MBA という学位は文部科学省認証に関連していません。MBAという称号は各大学が独自で表記しているだけなのです。

 

文部科学省はあくまでも、その学校が提出した認可申請書に基づき、申請された学位がカリキュラムやプログラムの内容に適合しているかどうかを審査し、学位を認可しているに過ぎません。もちろん、それは日本語の学位表記に関するものであるため、日本の大学院が表記している取得学位は、MBA ではなく、多くの場合、日本語表記による「経営学修士」となっています。専門職大学院「ビジネス・MOT」では経営学(専門職)(総称)と表記するのが正しく、MBAを認証する海外第三者品質評価機関の認可のないMBAは自称MBAとなります。

 

 

乱立する日本のMBAスクール

1991年に28 種類あった修士課程の学位の数がその後の自由化により、2004 年には437 種類に、2016年度では1703種類にまで増加しています。

このうち、いわゆるMBA に相当する専攻分野を例にとれば、「修士(経営管理)」「修士(経営管理学)」「経営管理修士(専門職)」「経営管理学修士(専門職)」の4つの名称に加えて、「修士(経営学)」「修士(経営)」「修士(経営情報学)」「修士(ビジネス)」「経営学修士(専門職)」「経営修士(専門職)」「国際経営修士(専門職)」、「デザイン経営修士(専門職)」「ファイナンス修士(専門職)」「国際会計学修士(専門職)」など、少なくとも14 種類の学位名称に対してMBAを英語表記として用いています。なお、この専門職大学院の中でMBAの品質保証を得ているのは早稲田大学と明治大学のみとなっています。

 

アメリカで始まり欧州で国際的に発展したMBA

 

MBAでは経営に対する「学問的なアプローチ」と「実践的アプローチ」があります。

前者は欧州的で、後者はアメリカ的と言われていますが、各スクールの教育方針により違いがあります。いまでは、MBAというと世界的に後者ほうが主流となっています。いわゆる「経営管理学」(business administration) です。しかし日本では、この両方を明確に分けずに「経営学」と呼ぶことが多く、体系的な混乱が生じています。

ただ、イギリスでは必ず論文を提出しないと学位は取得できないため、この論文を仕上げる論理の組み立てが今は大変重要なトレーニングになっています。

経営管理学のMBA は、19 世紀末に米国ペンシルベニア大学(ウォートン・スクールWharton School)に始まり、20 世紀初頭にダートマス大学、さらにはハーバード大学でケースメソッドが開発され、今日のMBA 教育の基礎がつくられたと言われています。

注:ドイツの官僚養成学校であるという説やフランスのエリート養成学校・グランゼコールに起源があるという説もあります。

 

 

― 世界に通じるMBAとはどういったものなのでしょうか?

 

喜多:第三者品質保証機関の保証があるかどうかが重要です。たとえば、イギリスの高等教育品質保証機構(QAA)による教育評価であったり、アメリカのAACSB、ベルギーの欧州経営開発財団(EFMD)など、国際認証機関として世界的に実績のあるマネジメント教育に関する認証を受けているカリキュラムを提供しているMBAです。

 

日本でMBAの国際的な認証機関(EQUIS 、AACSB、AMBAなど)のいずれかから認証を受けている大学は、慶応大学、国際大学(新潟)、立命館アジア太平洋大学、名古屋商科大学(NUCB)、早稲田大学ビジネススクール、明治大学の6校しかありません。(2019年9月1日現在)

世界に目を向けると、アメリカではプログラムは2年制が一般的で、1年目は戦略立案、ファイナンス、会計、統計、マーケティング、経済学、オペレーション、組織学といった必修科目を学び、2 年目は専攻科目を学ぶケースが多いです。また、1年目と2年目の間に、サマーインターンシップ制度があり、企業で研修を受けられるようになっています。学部卒業生がそのままビジネススクールに進むケースも多く、約3割が実務経験のない学生というスクールもあります。

また、カナダではアメリカのビジネススクールと同じようなシステムで、2 年制プログラムが中心ですが、ビジネススクールの数は少なく、入学難易度が高くなっています。

一方、イギリスでは2年制より1年制が中心(フルタイム)であり、パートタイムやTop UPなどコースに多様性があります。(パートタイムは2年)

 

欧州諸国は多くが、学部3 年修士1 年というシステムになっています。ビジネススクールは各国に特徴のあるスクールがあり、その特徴を求めて留学生が集まっていますが、ほとんどのトップ・ビジネススクールが母国語と英語のコースを併設しています。

ドイツにおいては、実践的なMBA認められるようになったのは1999年と、MBAの歴史が浅いです。

オーストラリアでは国を挙げて留学生誘致政策を取っているため、MBA留学も注目を集めており、英語圏でありながら学費と生活費が割安であるため、アジアから留学生が多く集まっています。

アジア圏については、中国をはじめ、香港、シンガポール、韓国など、これらの地域は日本をはるかにしのぐ学歴競争社会です。これらの国と比較すると、先進国の中で日本だけが学歴に無頓着なのではないかとさえ思ってしまいます。

中国には中欧国際工商学院(CEIBS)というが世界トップレベルの学校があります。このスクールは中国政府とEU(欧州連合)とのジョイントベンチャーで1994年に設立されました。Financial Times「Global MBA Ranking 2019」でもトップ5にランクインするようなレベルです。

それ以外にも欧米のビジネススクールが目白押しで、イギリス大学の輸入プログラム受講者数も約7万人に上ります。

香港、シンガポールも有名校が進出しており、フランスのINSEAD(インシアード)、シカゴ大や、地元の香港大学、香港科技大学が有名です。シンガポールでは国立シンガポール大学やSMU(Singapore Management University)が有名です。

また、MBAでインドにはIndian School of ManagementやIIM(Indian Institutes of Management)がトップ校で、欧米のビジネススクールを蹴って入学する人も珍しくないそうだ。インドと言えばインド工科大(IIT)が有名だが、友人曰く、IIT落ちたものがアメリカのMITに行く、インドは最高レベルなどと豪語しているので、ビジネススクールの学生もその点は同じだと思います。

日本は世界どころかアジアでもMBA後進国であるといわざるをえない状況であり、喜多氏いわく、「日本のビジネススクールがアジアに進出しても太刀打ちできない」というレベルにあるということです。

 

 

 

MBAを目指した女性・1人目 山下琴美さん(仮名)

 

実際に国内でMBAを取得中の20代の女性にお話をお伺いしてみました。

看護師のキャリアアップとともにMBAを取得された理由とは――

 

簡単にご経歴を教えてください。

看護大学を卒業したあと、臨床看護師となり、企業看護師を務めたあとで保健師(行政関連)になりました。

 

チャレンジしたMBAはどんなものですか?

英国国立アングリア・ラスキン大学MBAです。

 

学校の決め手はどこにありましたか?

一つに、MBAと言っても様々で、国際的にも通用するイギリスの学位であると知ったことが大きいです。漠然とした英語への苦手意識がありましたが、授業が日本語であることから、理解の段階で言語が壁になることがないのは魅力的でした。課題などは英語のため、英語の論文などを書く練習にもなるという点も良かったです。日英両方の力がつきます。

また、平日は自身の専門分野の仕事で経験を積みつつ、週末にMBAの勉強を並行できるというのが、自らの生活スタイルやキャリアプランにも合っていると考えました。

 

MBA取得までに悩んでいたことがあれば教えてください。

元々の専門は看護領域ですが、対個人だけではなく、広い意味で人々の健康に関わりたいと考えていました。そのためには医療・健康に関することだけではなく、広い知識や論理的思考能力が必要だと感じるようになり、どうやって学ぼうかと悩んでいました。公衆衛生学(MPH)分野への進学を視野に入れると同時に、MBAの勉強もしてみたいと考え、入学に至りました。

 

MBAの勉強を始めて得られたことはどんなことでしょうか?

学生のバックグランドが様々であり、多様な価値観や進路の可能性について知ることができました。特に医療分野は閉じられた世界になりやすいので、多彩な人々とグループワークや意見を交わすことは、とても刺激的でした。

 

印象的だった出来事があれば教えてください。

限られた時間の中でグループワークを行い、最終日にプレゼンし論評してもらうというマーケティングの授業です。その年は、実際のワインショップを会場として各チームが日本ワインの戦略を発表するというものでした。見る側としてワイン片手に発表を聞いていましたが、皆さんが和気藹々と発表に励んでいる姿が、とても印象的でした。

 

MBAにチャレンジして良かったことを教えてください。

様々なバックグラウンドを持った学生や先生から学ぶことが多かったことで、少しずつではありますが、今までになかった「考え方」を自分の中に取り込むことができました。

MBA的な視点で言えば、医療系の業界はまだまだ課題が多いのだと感じる一方、学んだことを活かす機会も多いのではないかと考えています。取り込んだことをこれからの人生にどう活かしていけるのかはまだ未知数ですが、可能性の幅を広げていければと思います。

 

やり残したこと、後悔していることなどがあれば教えてください。

今まで勉強してきた分野とは全く別の内容であり、まずビジネス経験のある学生さんの使う用語から分からず、勉強方法も戸惑うことも多かったです。確実な知識とエビデンスを重視する意識が身についていたこともあってか、課題への取り組みや心理的ハードルが高くなってしまったように思います。

 

MBAでキャリアアップを目指す女性に向けてのメッセージをお願いします。

参加の時期にもよるかと思いますが、私が入学した時には思っていたよりも女性が多く、驚きました。女性のMBAホルダーが多く活躍する時代なのだろうと感じています。

 

 

 

今回、MBAについて改めてその内容を知るとともに、日本国内におけるMBAの動向や世界との比較について現状を知ることが出来ました。一つのマーケットとして世界のエリート、トップ層が当たり前のように取り組んでいるMBA。次回は世界に目を向け「日本のMBAと世界のMBA」についてご紹介させていただきたいと思います。

 

2回目へ続く・・・2回目ではさらに深掘りして、「日本のMBAと世界のMBA」を中心にご紹介します。

 

 

喜多元宏氏プロフィール

DBA(経営管理学博士・スイス),MBA(フランス),東大修士(教育)、金工大工学(修士)

フランス・グランゼコールexeDBA中途退学(ENPC)

株式会社エグゼクティブ・ジャパン 代表取締役 / 欧州アジア大学院MBA・DBA学位取得総合教育プロバイダー 代表 / ExeJapan Business School 代表。

1977年、早稲田大学を卒業後、住宅資材関連商社に入社。海外事業責任者として世界40カ国で国際ビジネスを経験。嘗て、中東湾岸戦争直前にイラクのダム建設現場での住宅建設に関わる。1993年、フランス・グランゼコール国立ポンゼショセ校国際経営大学院で国際MBAを取得。在学中、学生運動を起こし学校側と対峙し、その縁で学長補佐官を拝命。帰国後、欧州系企業の本部長、社長を歴任。2002年、イギリス国立ウェールズ大学と交渉、MBAジャパンプログラムを創案、導入、東京で開講。初代プログラムディレクターとなり、2006年に退任。その後、欧州委員会関連機関で欧州ビジネスマンに日本における製造・流通・投資についての教育ミッションを担当する。NPO法人エイジコンサーンジャパン(イギリス最大福祉事業団体日本版)理事。著書『間違いだらけのMBA』(光文社ペーパバック)。

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