インタビュー記事公開 キャリアプラン最前線 ~MBAを目指した3人の女性たち~

インタビュー記事公開 キャリアプラン最前線 ~MBAを目指した3人の女性たち~2019年11月23日

第3回:MBAのその先へ

 

インタビュー&カメラ:方喰正彰

 

1回目ではMBAの基本的な内容、2回目では日本のMBAと世界のMBAについて紹介させて頂きました。最終回となる今回は、「MBAのその先へ」というテーマで締め括りたいと思います。

 

バブル崩壊以降、「失われた20年」と言われていたものが、「失われた30年」になろうとしている日本ですが、スイスでビジネススクールを運営するIMD(International Institute for Management Development、国際経営開発研究所)が毎年発表している国際競争力ランキングでは年々落ちていた順位が、ついに2019年度のランキングで30位という結果になってしまいました。

インバウンド対策では2013年に初めて訪日外国人観光客が1000万人を超え、2016年に目標としていた2000万人を突破、さらに来年のオリンピックイヤーでは4000万人の目標を掲げて着実に数字を伸ばしていますが、3年たらずで数値を倍増、1000万人もの人を惹き付けたにも関わらず、国際競争力では大きく低下しています。

国際競争力ランキングの評価項目は332あり、主に「経済状況」「政府の効率性」「ビジネスの効率性」「インフラ」の4つの観点から評価されていますが、2019年度版の結果を見るとビジネスの効率性では46位、政府の効率性では38位など、社会的な面で評価が低くなっています。

話をMBAに戻しますと、MBA取得において1つのハードルとなっているものにお金の問題があります。そこで、MBAをお金の側面から見ていきたいと思います。

 

― MBA 留学の費用対効果

喜多:海外ではMBA 取得にあたって費用対効果を考えることが一般的で、現実的な人であればほとんどの人がMBAに対する費用対効果を意識しています。

社会人の場合、MBA を取得したことで望める年収と現在の年収を比較し、MBA にかかる費用(授業料など)と2 年間仕事から離れる逸失利益を加算して、それが何年で回収できるかを計算する方法です。端的に言うと、「高い授業料を払って元が取れるかどうか」ということを比較検討するのです。

たとえば、ハーバード大学、スタンフォード大学などになると、2 年間で最低10 万ドルほどの授業料がかかるといわれています。これに教材費、生活費などを加え、さらに逸失利益(学業のために働けないことで失う給料)を加えると、27~28 万ドルほどになるため、家を購入するのと同じくらいに大きな決断が必要になるのです。

アメリカのビジネススクールではリターンにかかる年数が公表されているので、留学する際には参考にしたい数字です。

 

 

GMAC(Graduate Management Admission Council)というビジネススクールへの出願に際して提出が必要となるテストを行っている団体では、学位レベルによる報酬(年収)の比較を毎年統計調査しています。

また、卒業生の職務レベルとプログラムの種類別報酬というものも公表されており、全体的にはFT2 YRMBAプログラムを卒業した方の報酬が全体的に高くなっていることが分かります。

 

FT 2 YR MBA・・・2年制のMBA(終日授業がある。イギリスはPart-time)

FT 1 YR MBA・・・1年制のMBA(終日授業がある。イギリスなどはFull-time)

Part-Time MBA・・・平日及び夜間などMBA

Flexible MBA・・・自由にカリキュラムが作れるMBA

Executive MBA(EMBA)・・・7-10年以上の職務経験がある人を対象にしたMBA(この学位はMBAです)

さらに受講形式としては、Blended learningやBlock learningを設けて受講しやすくしているコースもあります。

― 近年のMBAの特徴はどのような状況でしょうか?

喜多:特に今伸びているのは国境を越える高等教育(Trans National Higher Education / Cross border Higher Education)です。例えば、イギリスの教育をイギリスに行かないで自国で学習する人が世界に約70万人います。イギリス大学協会(Universities UK)の「The scale of UK higher education transnational education 2016-17」によるとオンラインだけではなくイギリスの国立大学の過半数がプログラムの輸出を行なっていますが、その形式は多様です。その輸入先のトップはマレーシアで、74,000人に人が学んでいます。続いて、中国で約7万人が学んでいます。

今の時代は留学というのはある程度の地位や給与を得ているビジネスマンにとってはリスクが大きすぎます。できれば自国いながら海外大学の学位が取得できれば機会損失が少なくなり、またその他の様々なリスクも回避することができます。香港には世界の大学の教育プログラムが約1,000種類ほど輸入されており、その半数がイギリスから輸出されたものです。

 

 

 

― 時代はMBAからDBAへ

MBAの上位クラスとしてDBAという分野があります。アメリカのMBA協会(The Association of MBAs)によると、DBAとは次のように定義されています。

 

「DBAは博士課程レベルの研究ベースの学位であり、管理分野における学際的な専門的実践の強化、理論的枠組み、方法、および技術の開発と応用による知識に貢献するように設計されています。DBAは、理論の新しい応用や実践における文脈内での潜在的な創造性や実験に重点を置いています。」

(DBA Accreditation Criteria April 2016より筆者翻訳)

 

 

― DBAを目指す人が増えている背景

喜多:MBA の上位に位置する学位で日本語では「経営管理学博士」などと呼ばれています。

日本ではまだDBAを学位として設置している学校は少なく、優秀な人材を育成するうえでも日本におけるDBAの必要性が高まっています。

なお、MBAを経営学修士と訳されているケースが多くみられますが、適切には経営管理学修士とすべだと思っています。従ってDBAについては経営管理学博士が適切だと思っています。

DBAについて知らないPhD ホルダーもかなりの数がいると思います。博士と言えばPhDが有名だからです。DBAはProfessional ドクターと言われ、日本では今までビジネスの上級管理者はMBAホルダーと考えられてきた時代が長かったですが、今はビジネス社会で上級を目指すにはDBAの学位が必要です。現に欧州中堅ビジネススクールでは軒並みDBAコースを新設させて力を入れています。

それは企業社会が求めているからに他なりません。

しかもPhDの様に何年も掛かって論文を仕上げるのとは違って、ビジネスマンにとって取り組みやすいからです。未だにMBAがビジネス社会でトップ層だと思っている方がいらっしゃれば、すぐにでも最新の状況をお調べになってみることをお勧めします。世界を相手にした際に恥をかいてしまいます。

もはやMBAは中間管理職の持つ学位になりました。日本をベースに考えている間に世界から大きく遅れをとってしまいます。日本はこの分野で周回遅れどころか、未だ昭和時代で止まっているといっても過言ではありません。

 

近年になって、世界でも各ビジネススクールがDBA学位に近似した学位を出し、競い合うようになってきました。すべてDBA系ですが、差別化を図るため、DBA,Executive DBA, PhD in business administration、executive PhDなどといったプログラムを設けています。

日本の大学のDBAと称するコースを受験する場合は注意点としては、それらのコースが本来のDBAコースと言えるものなのかをよく精査することです。もちろん文科省にはMBA、DBAという学位はありません。日本で大学名が有名だからといった判断基準ではなく、教員がどの程度の実戦的ビジネス経験を持ちながらどの程度のアカデミズムを背景としているかという点がポイントになります。教員自身が前線でのビジネス経験が乏しいのであれば、PhDコースと変わらないことになってしまいます。MBAの上位に来るのがDBAですからこの点は重要なポイントとなります。また、繰り返しとなりますが、そもそも日本の文科省にはMBA、DBAという概念も学位もありませんので、自身できちんとした目を持って判断することが大切です。

 

 

― DBAに関する現在の状況

喜多:日本企業復興には日本人ビジネスマンの高度教育が不可欠だと考えていますが、ビジネスが複雑化し、高度な専門知識や手法が必要となってきていている昨今、MBAだけでは充分とは言えない点もあります。また、MBAを取得した人でも、時間が経っていれば自分でアップデートし続けていない限り、MBAで学んだことの多くが「有効期限切れ」になってしまっているかもしれません。

例えば欧米企業の管理職は、ビジネススクール(所謂MBAスクール)の上級管理職エグゼクティブコース(ショートコース)に参加して世界の企業人と特に異業種間で勉強し合っていますが、日本企業ではそうしたことが非常に少ないのが現状です。

日本企業の役員陣も同じ企業文化内に汲々としてないで、武者修行や他流試合をしないと外資系企業に太刀打ち出来ません。過去に光栄をつかんだ有名なメーカーが衰えて、外資系企業に買収されて行く姿は悲しく思います。

 

また、教育の現場に目を移しても、日本では真の意味でビジネス経験豊富(実戦的)なDBA(経営管理学博士号)取得の教員も不足していると思います。外資系企業ではDBAホルダーを積極的に採用しています。転職サイトにDBAホルダーだと掲載すれば即座にエージェントから必ず引き合いが来るような状況です。

 

 

― 日本人の方で、DBAを目指される方はどんな方でしょうか?特徴を教えてください。

喜多:まずMBA取得者が主です。MBAはもうその環境では持っていることが当たり前で、優位にならないという危機感を感じている上昇志向のマネジャーやトップ層の人たちです。ビジネス世界で優位な位置で優位な仕事をしたいという人がDBAの取得に動いています。

DBAに入学して研究をしようという人は殆どいません。いるとすればPhDの方が向いています。MBAやDBA保持者は前線の司令官として活躍するような仕事を担うことが多く、また企業側もそのようなことを期待しています。実戦性を求めていない人はPhDコースに行くほうがよいでしょう。

MBAを苦労して取得しても、資格として人事に登録されたり、MBAやDBAに対する理解や応用する土壌のない保守的な企業体質に幻滅してDBA取得後外資系企業に転職を狙っている方なども少なからずいます。なかには、MBAの学位を取得しても名刺に書いてはいけない…と言われたケースなどもありました。残念ながら、日本の遅れは甚だしいといわざるをえません。

 

― 海外の学校へ視察に行かれることもあるようですが、海外のDBAの方々とお話されてどのような印象を持たれましたか? また日本(人)についての話題になったことがあれば教えてください。

喜多:この分野の教育機関の管理者やDBAホルダーと話すと、もはやMBAは自動車免許のような存在であって、これからは上級管理職はDBAの取得が必要であるという見解で一致します。また、スクール側から見るとPhDプログラムはコストのかかる博士、DBAプログラムはお金を稼いでくれる博士というイメージで、中堅ビジネススクールではどんどんDBAコースの設置を始めている…という話題になります。当然DBAホルダーはMBAに対しては一線格下に見ています。実力とは言っても実力があてになる保証はありません。もちろん博士取得していても保証はできないですが、それだけの学習と広い知見を得ていることは当然ですから上級管理職としては優位になります。そういう意味で、キャリアアップやリカレント教育に対する二極化が起きているといった話題が話されています。日本人のことについては話題になりません。

 

― DBAで教えている教授陣の方について驚いたことや印象に残っていることがあれば教えてください。

喜多:DBAはProfessionalドクターとは言え、単なる実業学校ではないので、アカデミックな深掘りはもちろん必要です。しかし、実際の前線での経験がなければ単なるPhDコースの教授でしかありません。DBAで教える教員は前線における実戦経験が必要だと思います。逆に、そうでなければ日々実践で試行錯誤している受講生と噛み合いません。残念ながらその点を考慮すると、日本でDBAの教員を揃えるとなれば相当難しいというのが難点です。

自分がフランスのDBAに入学した際のアメリカ人教授によるResearch methodsの授業では1日9時間の授業が5日間続きましたが、全くばてずにとうとうと教えていました。これは流石にすごいと感じました。

本来はMBAもDBAもビジネススクールで教えるにはそれなりの教育機関で訓練を受けた教員が教えるべきではないかと考えています。日本の教員でそのような教育機関(例えば、かなり以前であればハーバードビジネススクールのteaching programなど)で訓練を受けた教員がいましたが、今ではどうでしょう?殆どいないのではないでしょうか?

今春訪問したスロベニアの認証機関IQAでは今でもそのようなプログラムがあり、アジアからも参加者が少なくありませんが、残念ながら日本からはほとんど参加者がいませんでした(過去に一人だけ)。

日本の高等教育水準が低いと思われないためにも、これらの問題には早急に向き合うことが必要だと、焦るばかりです。

 

 

 

MBAを目指した女性へのインタビュー

3人目:森美保さん(仮名)

外資系の保険会社からキャリアをスタートさせ主にコンプライアンス業務を担当してきた森さんにDBAにチャレンジされた経緯をお伺いしてみました。興味を持ったらとりあえず何でもやってみるという気持ちで挑んだDBAの世界とは――

 

簡単にご経歴を教えてください。

米系保険会社、日系信託銀行、欧州系投資銀行等で10年ほどコンプライアンス業務を担当し、現在は欧州系投資銀行でのコンプライアンス業務に携わりコンプライアンス的側面からビジネスを支援しています。

 

チャレンジしたMBAはどんなものですか?

イギリス国立アングリア・ラスキン大学MBA、UITM(ポーランド情報技術経営大学院DBA)です。

 

学校の決め手はどこにありましたか?

仕事を続けながら週末に学ぶことができる点です。仕事は充実していて楽しいですし、経済的な面でも仕事を辞めてまで学ぶという選択肢はなかったため無理なく出来るという点で大きなポイントとなりました。

その他では、米国法を英語で学べることや、会社以外でも英語に触れる機会を増やしたかったため英語を使ったカリキュラムであるということもポイントとなりました。

また、授業の資料などが事前にネットで入手・閲覧できる点も便利でした。

 

MBA取得までに悩んでいたことがあれば教えてください。

人生は一度しかないし、過去には戻ることができないので興味を持ったらとりあえず何でもやってみることにしています。そのため、悩みはありませんでした。

 

MBAの勉強を始めて得られたことはどんなことでしょうか?

MBAの取得において、資金面の問題があると思いますが、私の場合はMBAの学習を始め、結果を出すことに意識を集中して仕事に取り組めるようになったおかげなのか、社内評価が上がり昇進昇給することが出来ました。結果として経済面で楽になったため、先行投資としてはいい対象だったと思います。

 

印象的だった出来事があれば教えてください。

生徒たちがさまざまなバックグラウンドを持つ方々ばかりで、ディスカッションもプレゼンも勉強になりました。グループでプレゼンをするとなったときに、メンバーがそれぞれに個性や得意分野があって、それらを活かしながら作り上げていくのはとても楽しく、絆が深まりました。また、決まった校舎があるわけではなく、決まったテキストがあるわけではないので手作り感があり、その中で教授も生徒も一丸となって授業を作り上げているという一体感がありました。

 

MBAにチャレンジして良かったことを教えてください。

普段では出会えないような方々と出会えて、世界が広がり、人生がより充実したように思います。少人数制なので早い段階で生徒同士が顔見知りになったり、OBやOGが授業に参加したり、飲み会や食事会があったりと、人との交流がさかんで楽しかったです。

仕事においても、社内ステークホルダーやキーパーソンとの信頼関係がより強くなり、以前にも増して重要案件を任されるようになりました。

 

やり残したこと、後悔していることなどがあれば教えてください。

過去を振り返って反省をすることはあるけれど、どれも次につながっていて、いい経験になっていると思いますのでやり残しや後悔はありません。

 

MBAでキャリアアップを目指す女性に向けてのメッセージをお願いします。

人生は一度きりなので少しでも興味があるなら挑戦してみてください。そこから広がる世界があると思います。

働きながら授業に出たり課題をこなさなくてはならないので、精神力・体力を鍛えることも必要です。周りの雑音に惑わされないために多少の鈍感力も必要です。

MBA取得でキャリアアップを考えている場合には、与えられている仕事に励み結果・実績を出し社内での立場を上げていくことも大事です。転職時に結果や実績が伴わないと、転職が成功しないように思います。

他人が何と言おうとも自分が決めたことであれば、自分を信じてただやるのみです。自分の人生は自分で選択する、他人任せにしないということを大切にしてください。

 

 

 

今回、この取材でMBAやDBAの分野から世界に目を向けることで日本の置かれている厳しい現実に改めて目を向けることになりました。頭で仕事をする時代がどんどんと進んでいく中で、ビジネスの分野はもちろんですが、科学技術等の面への影響についても懸念がぬぐえません。昭和の時代から平成の時代になり日本人のノーベル賞受賞者数は3倍ほどになりましたが、令和の時代はどうなるのか、期待よりも不安が先に立ってしまう気持ちが杞憂に終わってくれることを切に願いたいと思います。

最後に7人の賢者の学びに関する言葉を記して、このMBA・DBAシリーズを終わりにさせて頂きたいと思います。毎回長文をお読み頂きありがとうございました。

 

 

 

スティーブン・R・コヴィー

自分への教育は自分の無知を認めることから始まる

 

B.B.キング

学びの素晴らしさは、誰もそれをあなたから奪えないことだ

 

ウォルト・ディズニー

失敗したからって何なのだ?失敗から学びを得て、また挑戦すればいいじゃないか

 

アインシュタイン

学べば学ぶほど、自分が何も知らなかった事に気づく、気づけば気づくほど、また学びたくなる

 

ドリス・レッシング

学びとは、つまり人生の中で理解したと思っていたことを新しい形で突然、理解し直すこと

 

新渡戸稲造

学べども、なお学べども、学べども学び足りぬは、学びなりけり

 

ナイチンゲール

5年間にわたって1日に1時間同じことに時間を費やせば、その道の専門家になれる

 

 

喜多元宏氏プロフィール

DBA(経営管理学博士・スイス),MBA(フランス),東大修士(教育)、金工大工学(修士)

フランス・グランゼコールexeDBA中途退学(ENPC)

株式会社エグゼクティブ・ジャパン 代表取締役 / 欧州アジア大学院MBA・DBA学位取得総合教育プロバイダー 代表 / ExeJapan Business School 代表。

1977年、早稲田大学を卒業後、住宅資材関連商社に入社。海外事業責任者として世界40カ国で国際ビジネスを経験。嘗て、中東湾岸戦争直前にイラクのダム建設現場での住宅建設に関わる。1993年、フランス・グランゼコール国立ポンゼショセ校国際経営大学院で国際MBAを取得。在学中、学生運動を起こし学校側と対峙し、その縁で学長補佐官を拝命。帰国後、欧州系企業の本部長、社長を歴任。2002年、イギリス国立ウェールズ大学と交渉、MBAジャパンプログラムを創案、導入、東京で開講。初代プログラムディレクターとなり、2006年に退任。その後、欧州委員会関連機関で欧州ビジネスマンに日本における製造・流通・投資についての教育ミッションを担当する。NPO法人エイジコンサーンジャパン(イギリス最大福祉事業団体日本版)理事。著書『間違いだらけのMBA』(光文社ペーパバック)。

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